(がく)関節症(かんせつしょう) TMD(Temporomandibular disorders)             高知市青木歯科TOP

耳の前が痛い、口が開かない、口を開けると音がする、かみ合わせがおかしい)        

更新2021/04/12 2022/03/06

 

顎関節症の治療

東京医科歯科大学顎関節治療部では

病態(痛み運動制限)のコントロールと病因のコントロールをおこなう。

●痛みと運動制限に対しては始まってから2週間以内は安静、2週間を超えている場合は開口訓練。痛みにはカロナールなどの鎮痛薬も使う。

●病因のコントロールはTCHのコントロールを主とし、バイトプレートも含め、咬み合せの治療はほとんど行わない。

という治療戦略で好成績をあげているといいます。

 

当院ではこの治療戦略を参考にして治療にあたっています。原因となっているTCH,頬杖などの生活習慣の改善で、顎関節症の症状(口が開かない、関節が痛い)の改善を図り。音がする症状については、音のするメカニズムを説明し、自然治癒を待ちます。

※開口訓練は痛いところまで自分の手であけ1020秒静止。これを45回繰り返す(1セット)35セット/

TCH:(Tooth Contactinig Habit)目が覚めているときに上下の歯を接触させている習慣。思い切りかみしめた強さの7割以下の力で長時間かみしめている現象。

唇を閉じたとき、上下の歯が当っている人はTCHがあるといわれています。舌や頬粘膜に歯列の跡がついているのはTCHをしている兆候だといわれています。

※慢性期の治療の原則は筋肉と関節の血液循環を良くすることです。具体的には、蒸しタオルによる温熱療法と動かすこと(運動療法)が有効です。

※蒸しタオルは、濡らして絞ったタオルを電子レンジで温めることで簡単に作れます。痛みが和らぐまで数回繰り返しましょう。

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顎関節症 に対する画像結果

顎関節症 に対する画像結果

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顎関節症の症状

顎関節の解剖

口があかない、音がするメカニズム

注意すべき生活習慣

 

TCHをコントロールする方法

   歯を離すと書いたメモをパソコンなど作業する場所に張りつけ、それを見たとき、肩の力を抜いて、口を開き歯を離しましょう(東京都木野先生の提唱)

   上下の歯の間に軽く舌を挟んで、微笑みましょう(北九州市下川公一先生の提唱) 側頭部に指を置いて奥歯で噛むと側頭筋が収縮することが分かります。次に舌を挟んでみてください。側頭筋がリラックスすることがお分かりになると思います。

   食べ物を噛むときの一口目を前歯で噛み切りましょう(埼玉県久喜市石幡先生の提唱)

 

いずれも歯を離すことになり、側頭筋、咬筋などの口を閉じる筋肉を緩め、外側翼突筋を動かして顎関節の血流をよくすると考えられます。

この3点セットをお勧めしています。2016/03/19

 

End-feel試験

 顎関節症における開口障害はClosed lock(復位を伴わない関節円板前方転移)だけではなく、筋肉が原因のものや関節内の癒着が原因になっているものなどがあることがわかってきました。簡易に関節性・筋性の開口障害を判 別する方法としては,最大開口時に術者が手指で下顎 を伸展させ可動性を確認する顎関節可動性試験(エンドフィール試験)が使用されています。自力の開口度=他力の開口度(hard end-feel)の場合は関節性であり、自力の開口度<他力の開口度(soft end-feel)の場合は筋肉性だとされています。

参考:永田和裕 開口制限を伴う顎関節症の治療

 

鑑別(かんべつ)診断(しんだん) 

 咀嚼筋腱・腱膜過形成症(咬筋、側頭筋の腱および腱膜が過形成することにより、筋の伸展を制限し開口障害をきたす疾患で、2008年の日本顎関節学会シンポジウムにおいて疾患名が承認された新しい疾患)

いわゆる四角い顔貌と緩徐に進行する開口制限および最大開口時に咬筋前縁の硬い突っ張りの触知が診断の決め手。『口腔外科ハンドマニュアル‘13』。開口制限はあるが、前方運動(顎を前に出す)ができるのが顎関節症の関節円板前方転移で口が開かない場合と異なる点だと考えています。(2009年の論文に「下顎側方および前方運動に制限がないのも診断の一助と考える」とあります。)

以下のパノラマレントゲンは当院で経験したケース。いずれも下顎角や筋突起が発達しています。

抽象, 男 が含まれている画像

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開口度15ミリ程度。男性

開口度20ミリ。女性

開口度20ミリ。男性

 

Square mandibleを伴う新概念の開口障害:咀嚼筋腱・腱膜過形成症の病態と治療 

 

顎関節症と鑑別すべき重大な疾患に側頭動脈炎(巨細胞性動脈炎)があります。Dawson『オクルージョンの臨床』1974年版では言及されていましたが、1989年の第2版、2007年の第3版には記載がなくなっています。日本人には少ないといわれており、東京歯科大学(当時)の顎関節症の専門医は講演で「見たことがない」と述べていました。食事の後で側頭部や下顎が痛くなるといった顎関節症と似た症状がありますので、頭の片隅に置いておく必要があります。自己免疫疾患の既往のある場合は要注意です。眼に症状がある場合には眼動脈に炎症が波及しており失明に至るといわれていますので、緊急に神経内科などを受診する必要があります。

 

※ここ数年体調が悪いとおっしゃっており、医科でも何も問題ないといわれていた患者さんが、近森病院で巨細胞性動脈炎(昔は側頭動脈炎とよばれていました)と診断されたと来院されました。治療には副腎皮質ホルモンを使いますので、骨粗鬆症を予防する薬物も使用することになります。ビスフォスフォネート製剤(骨粗鬆症の治療薬)を長期に使用すると抜歯時の顎骨壊死のリスクがありますので、抜歯にならないよう家庭療法が特に大切になります。

 

※側頭動脈炎は日本人では稀な疾患だといわれています(1998年の厚労省疫学調査で690人、0.65/10万人)。しかしながら関連するリウマチ性多発筋痛症の年間罹患率は50歳以上の人口10万人当たり52.5人であり、そのうちの15%が側頭動脈炎を併発するとの説があります。(総合診療・感染症科マニュアル、亀田総合病院編集、医学書院による)。つまり、50歳以上の10万人当たり8人発症することになり、高知市にも10人ぐらいいる計算になります。リュウマチ性多発筋痛症の治療で治っているのかもしれません。

 

もう一つの鑑別すべき疾患は舌咽神経痛です。これは大開口時に激痛が舌の奥から耳の奥にかけて走ります。痛みの強いことが特徴であり、「激痛があるなら顎関節症ではない」と言われています。また、顎関節症の痛みは開口やかみしめ時に生じるので、安静時に痛みがあるのは別の疾患の可能性が高いことになります。

 

 

顎関節症治療の歴史的変遷

口が開かない、口を開けると音がする、口を開けると痛いといった症状のある顎関節症は、1934年に米国の耳鼻科医コステンが、奥歯欠損や不良義歯と関係が深いと発表して注目されました。その後スカイラ―らが、奥歯の欠損による低位咬合よりも咬み合せの不調和がより問題だと主張し、咬合調整やバイトプレートによる治療が行われるようになりました。1980年頃から、あごの関節の内部の障害がクローズアップされるようになり、顎関節症の症型分類が提唱されました。そのうちのⅢ型(音がしたり、口が開かなくなったりする)に対しては、顎の位置をバイトプレートや外科手術で元に戻して、そのあごの位置に合わせて咬みあわせを再建する治療法が行われるようになりました。ところが米国で、この治療法の後遺症の訴えが多くなったこともあり、1996年にNIHによる声明が出されました。これが顎関節症治療におけるエポックメイキングとなり、2010年には米国歯科研究学会の声明が発表され現在に至っています。TMD Policy Statement:米国歯科研究学会による顎関節症の診断と治療に関する声明 日本語訳(日本補綴学会)

参考:日本補綴学会 特集 顎関節症治療法の変遷(2012年)より

補綴歯科領域における顎関節症治療法の歴史的変遷 

腔外科領域における顎関節症の治療法 

顎関節症患者における心身医学的な治療の変遷

 

 

顎関節症の自然史(natural history

  咀嚼筋障害(顎関節症Ⅰ型)およびその他については不明である。

  関節包・靭帯障害(顎関節症Ⅱ型)は通常、2〜4週間で緩解することが多い。

  関節円板障害(Ⅲ型)、変形性関節症(Ⅳ型)については、30ヵ月後には43%で症状がなくなり、33%で症状が軽減しており、症状の不変ないし増悪は25%であったと報告されている。

  顎関節症患者の大部分は2年半程度の期間を注意深く観察すれば、2/3以上の例で自覚症状の軽減がみられることが予想されるが、その機序は不明である

⑤治療せずに放置しても自然緩解がある自己限定的な(self-limited)疾患であるが、症状の長い症例では治療成績が悪い。

(柴田考典先生による)

 

 

咬み合せがおかしい(どこで嚙んでよいかわからない)

片側の奥歯が高く感じるため歯科を訪れると、咬合紙(薄いものはフィルム)を数回咬んで強く当たるところを削合することがあります。一見何の問題もなさそうですが、実はそこに落とし穴があります。それは新しい冠や充填を入れたわけでもないのに高く感じるのは、顎(下顎頭)が後ろや横にずれたことが原因かもしれないからです。あごがずれる原因には、強いゴムのマスクの着用、頬杖、横向き寝など数多くあります。

 

顎がずれたために片方の奥歯が強く当たっている場合に歯を削れば、顎はずれたままになり、原因が続いているなら、削っても、削っても高く感じることになります。

これが歯を削ってから「どこで嚙んだらよいか、わからなくなる」原因の一つであると考えられます。関節円板などの生体は粘弾性体であり、瞬間的な力がかかっても変形しませんが、長時間力がかかると変形する性質があります。横向きやうつ伏せで寝ることによって顎が変位するのはそのためだと考えられます。日常生活の中で、関節や歯に持続的な力のかかる習慣を修正することが咬みあわせを治療する前に絶対に必要な所以です。

 

したがって、いきなり歯を削るのは禁忌ですが、例外は伸びだしている下顎の親知らずです。下顎の親知らずが伸びだすと上の第二大臼歯の後ろ向きの斜面と強く接触するようになり、このために顎が後ろにさがってしまいます。すなわち、下顎の親知らずを削合すること(時間がたつとまた伸びだすのでできれば抜歯するほうがよい)は顎を後ろに下げる原因を除去していることになります。(自験症例参照)

 

 

参考:

    顎関節症とかみ合わせの悩みが解決する本 木野 孔司 講談社

    アゴの痛みに対処する20112014 古谷野潔 他 クインテッセンス出版

    TMDを知る 井川雅子他 クインテッセンス出版

    顎関節症診療ハンドブック 本田和也 他 メディア株式会社 2016

    永田和裕 開口制限を伴う顎関節症の治療 on line 2010

 

 

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